最近江戸時代の生活に関連した本を読むのですが、時代劇によく登場

する場面にはいくつか間違いあることを知りましたので、

23つご紹介します。

 

  町奉行所には「北町奉行所」といった表札はありません

 

*武家の屋敷にはご公儀の役所でも大名屋敷でも表札は出さない

そうです。でも表札がないと視聴者にはわかりませんね。

 

  居酒屋にはテーブル、腰掛はありません。

 

*浪人者や職人さんが居酒屋で一杯の場面はよく時代劇に登場

 しますが、江戸時代、居酒屋・小料理屋では、畳の上に料理や酒

 をのせた盆をじかに置いたそうです。

 星一徹がひっくり返すようなちゃぶだいが普及

 するのは大正時代以降のようです。

 

  江戸吉原の遊女たちが、真っ赤な格子の内側に群がって、

 道行く男たちに声をかける。これもなしです。

 

*江戸吉原の定番の大事なシーンなのですが、小見世の中でも

 かなり下のクラスの河岸店の遊女でもなければ、こんな行儀

 の悪い真似はしなかったとのことです。

 

 

ちょっと江戸吉原の話です。

 

「夜と昼朝とに落ちる日千両」という川柳があります。

 

夜は吉原、昼は歌舞伎興行地、そして朝は日本橋の魚河岸。

この3か所には一日に千両もの大金が消費された、という川柳です。

 

娯楽施設の乏しかった当時、年中無休で営業する江戸吉原は最大の

消費場所なっていましたが、さすがに江戸も後期になるとライバル

岡場所(幕府非公認の遊郭地)の攻勢にもあって、厳しい営業努力

強いられるようになったそうです。

 

氏家幹人氏著の「これを読まずに江戸を語るな」という本に、不況を

乗り切るため妓楼の経営者が打ち出す新商法の

あれこれが書かれています。

 

遊女、芸者さんの料金引き下げは当たり前、茶屋の紹介をカット

(吉原では通常、引手茶屋を通して客を妓楼に案内する仕組み。

つまりシステムの改革)して料金の明朗化を図ったり、あるいは

料理とのセット販売価格を提示するなどの経営努力が記述

されています。派手な宣伝広告もありました。

 

中でも興味深いのは、妓楼経営者の遊女に向けた訓示。

 

遊女の3人に1人しか客をとれなかったほど経営不況が深刻化

するなか、経営者はなんとしても客数を増やしたい。

 

同著では青楼掟(青楼は妓楼のこと)という史料が紹介されています。

文字通り遊女に向けた訓示です。

 

「遊びに飽きたスレッカラシの客は要警戒。だが誠実で人柄が

いいだけで金離れの悪い客はイタダケナイ! 自分が選んだ遊女

だけは誠実で客を騙さないと信じている客こそ上客だ。

こんな客をつかまえたら金品を引き出すのが遊女の道だ」

 

「馴染みになった客には衣類・寝具などをねだるのが遊女の作法

である。ねだるといっても、あまりガツガツしては客が逃げる。

欲得を表に出さぬよう注意して、可能な限り搾り取るのが上策だ。」 

 

経営者は一方でまた、遊女に対しては、

 

「病気になってもなるべく客をとるように!万一大病で年季を

勤め上げないで死ぬと判断したら、暇を出す」と訓告。

 

まさに冷徹非情な人物です。

 

だが、続くこの経営者の弁明がふるっています。

 

「私だってこんな掟を定めるのは決して本意ではない。

だが考えてもみてくれ。君たち遊女が私の言いつけをよく守って客を

騙し続けても、この世の中には遊女にハマって破滅する男が跡を

絶たない。ならば、もし遊女に誠の情があれば、身を持ち崩す客の数

は100倍にも増えてしまうだろう」

 

参りました!