辻斬り と かぶき者 [幕末 江戸]
「月のない星明りのきらめく薄暗い夜で、提灯の火で足元をてらして
歩くと、天王橋の所で、一人がヒェッと脅えたので、提灯を差付ると、
そこに年寄った男が袈裟懸け(けさがけ)に斬られて、真逆様に打倒れ、
まだ斬り立ての・・・」
江戸幕末を生きた古老の回顧談を集めた篠田鉱造氏著「幕末百話」に
江戸文久元治の頃の辻斬りの話がありました。
辻斬りとは?
大辞林をひくと「武士が刀の切れ味を試し、また武術を磨くために、夜間、
路上で行きずりの人を斬ったこと。また、斬る人。江戸初期横行し、幕府は
禁令を出して引き回しの上死罪とした。」とあります。
辻斬りは世情騒乱の幕末期にも横行していますが、大辞林にもあるように未だ
戦国の気風が残る江戸初期において多く発生したようです。
徳川第3代将軍の家光(1604~1651)や水戸黄門として知られる
徳川光圀(1628~1701)にも辻斬りの逸話があります。
話の真偽のほどは定かではありませんが、当時の殺伐とした空気を物語る
証左にはなりましょう。
徳川の天下統一が進み、大坂夏の陣を最後に内乱は終息しますが、人々が
平和を確信するのはようやく徳川第4代将軍家綱の政権樹立後と言われ
ています。
しかし戦時体制が凍結され、到来する泰平の世に馴染まない無頼の集団が
いました。
かぶき者です。
江戸初期に活躍?したかぶき者たちを一括りにしてその性格をしるすのは
難しいと思えますが、無頼の集団であることは確かでしょう。
かぶき者は「傾く」という言葉から派生しており、文字通り正しく安定
しているもの(秩序)にたいして傾いている者たちであり、旧来の武辺の
価値観を転換できず、平和な社会秩序に抗して反体制的な姿勢を良しとした
集団です。
徒党を組む彼らの服装や髪形も尋常ではなく(かぶき者たちのかぶいた格好
は歌舞伎の語源にもなります)、異様に長い刀を差し、しばしば乱暴狼藉を
働き辻斬り、放火や犬殺し事件も引き起こします。
かぶき者たちが跋扈し、辻斬りが横行する江戸初期の風景は、時代劇や
江戸グルメ本でお馴染みの江戸後期の印象とは随分と異なるようです。
ひとつ当時の人々の習慣?を記述したちょっとショッキングな話です。
大道寺友山(1639~1730)という兵法家が著した「落穂集」は
明暦の大火(1657年)以前の江戸の町には犬が少なかったと記されています。
その理由として武家や町方の下々の者たちにとって犬より上等な食べ物は
無いため、特に冬場ともなれば犬を見境なく(野良犬、飼い犬を問わず)
捕らえて食べてしまったためとあります。
徳川綱吉
犬公方こと徳川幕府第5代将軍綱吉(1646~1709)の発布した
生類憐みの令は天下の悪法として名高い。
跡継ぎに恵まれなかった綱吉が母の桂昌院が寵愛する僧の隆光の
「子に恵まれないのは前世の殺生の報いである。生類を憐れめ。
綱吉は戌年生まれであるから、特に犬は大事にするように.」との進言を
取り入れ制定されたのが生類憐みの令であるとよく説明されてきました。
はるか昔、学校でもそのように教わった記憶があります。
ある浪人は襲いかかった犬を斬ったため死罪。
頬にとまった蚊を叩いたある小姓は流罪。
・・・
現在はこの生類憐みの令については、戦国以来の未だ払底されない殺伐たる
人心の転換をはかったものとされ、同じく綱吉が発布した捨て子禁止令、
病人保護令などと合わせたより包括的な政策体系として見直されたようです。
辻斬りやかぶき者の存在を思えば、この天下の悪法の見直しも納得したい
感じを受けます。
最後までお読み下さり有難うございます。
宜しければ、戦国グッズ・幕末グッズの侍気分HPをご覧ください。
辻斬りやってます、お祭りなど街角で被写体待ちしてます、
写真やる人は、辻斬りて呼んでます。
by クッキー (2014-05-27 10:31)
アナログ侍さん、こんにちは
生類憐れみの令は、とんでもない法律だと思っていました
野犬に襲われても手出しできずに殺される人は大勢いたでしょう
しかし、見方を変えると良くもなく悪くもない法律のように思えてきました
by suhr0045 (2014-05-27 10:41)
「村上海賊の娘」戦国気風が吹き荒れて、おもしろかったです。
命を大切にしよう!「生類憐れみの令」良いではないですか!
(nice!いっぱい、ありがとうございました。当方変なブログです。)
by hanamura (2014-05-27 17:51)
クッキーさん
コメント有難うございます。
知りませんでした。刀をカメラに持ち替えて、袈裟斬りならぬ袈裟撮りですね!
by アナログ侍 (2014-05-27 22:06)
suhr0045さん
コメント有難うございます。
確か、北斗の拳でも犬を傷つけた哀れな村人を迫害する悪キャラが出てきましたよね。名前は忘れましたが。
by アナログ侍 (2014-05-27 22:13)
hanamaruさん
コメント有難うございます。村上海賊の娘、評判の本ですね!タイトルもグットきます。映画にもなるかもしれませんね。
by アナログ侍 (2014-05-28 07:51)
かぶき者って徒党を組んでいたんですね。一匹狼のような印象を勝手に持っていました。今でいうテロリストのような存在だったのかな。。。
by ys_oota (2014-05-28 07:56)
ys_ootaさん
コメント有難うございます。
江戸初期には大名の取り潰しの影響もあって大勢の失業武士やその奉公人が発生したこともかぶき者登場の背景となったようです。徒党を組んだならず者集団の印象も強い江戸のかぶき者ですが、戦国の初期かぶき者?は前田慶次に代表されるようなカッコイイ一匹狼的な印象ですよね!
by アナログ侍 (2014-05-28 23:29)
家光や光圀も辻斬りをしてた可能性があると知り驚きました!
生類憐みの令も歴史的背景を考えるとまっとうな法律だったのですね!
by おーやん (2014-05-31 17:55)
おーやんさん
コメント有難うございます。
辻斬り対策の為、1629年に辻番所(現在の交番の先駆け)が設置されるほど辻斬り事件が多かったようです。恐らく架空の話だと思いますが、家光の辻斬りを有名な柳生十兵衛が諌めたとの逸話も残っています。
by アナログ侍 (2014-06-01 08:07)